政府の支援を受けた産業で、特許の出願が増えた。こう聞くと、技術開発を後押しできたように思えます。しかし、その出願は、どこで生まれた発明を守るためのものなのでしょうか。
この研究は、2009~2019年の各国の政策と、31の製造業の特許出願を分析しています。補助金や輸出支援などの政策について、国内で生まれた発明の国内出願と、他国で生まれた発明の出願を分けて、その後の変化を調べました。
支援先はランダムに決まるわけではありません。もともと成長しそうな産業ほど支援されるなら、出願が増えても、それが支援の効果なのか、産業自体の成長によるものなのかは分かりません。そこで著者らは、外国の政策への対抗措置として、自国が支援策を増やす動きに注目しました。外国の政策がきっかけなら、自国の産業が成長しそうだから支援した場合とは区別しやすくなると考えたのです。こうした支援策の増加に伴って、特許出願がどう変わるかを調べています。
結果をみると、こうした政策によって、導入後4年までに国内発の出願が増えたという明確な証拠は得られませんでした。一方、海外からその国への出願は、一時的に増えていました。「出願が増えた」という同じ数字でも、内訳によって意味が違っていたのです。
著者らは、外国の企業などが、すでに開発を進めていた技術について、その市場で権利を確保しようと出願を早めた可能性を挙げています。ただし、これは結果に対する解釈です。出願の前倒しが実際にどれだけ起きたかを、個々の発明について確かめたわけではありません。
すべての支援で同じ結果になったわけでもありません。成長初期の産業や低炭素技術への支援では、国内発の出願が増える関係もみられました。ただし、この部分では、先ほどのように外国の政策を利用する方法は使っていません。もともと成長しやすい産業だったために、支援も出願も増えた可能性が残ります。そのため、出願の増加が支援によるものだとまでは言い切れません。
この論文は、査読前のワーキングペーパーとして公開されています。また、外国の政策を利用する分析方法にも限界があります。例えば、外国の政策が、自国の支援策だけでなく、企業の輸出や研究開発にも影響する場合です。その影響で特許出願が変わったのなら、自国の支援策の効果と見分けにくくなります。分析には、そうした別の影響がないという前提が必要です。対象は2019年までのデータで、政策導入後の変化も4年後までしか追っていません。今回の結果だけで、産業支援の長期的な効果まで判断することはできません。
日本への示唆
この研究を日本の政策評価に生かすなら、出願の総数だけでなく、どこで生まれた発明の出願が増えたのかを調べることが考えられます。国内の技術開発が進んだのか、海外の企業が日本での権利確保を強めたのかでは、政策の成果としての意味が異なるためです。
企業の知財部が海外の技術動向を調べる際にも、この区別は参考になります。例えば、ある国で特許出願が急増しても、現地の企業が新しい技術を次々に開発しているとは限りません。他国で生まれた発明を、その国でも守るための出願が増えている可能性があります。出願人や発明者の所在地、同じ発明がほかの国にも出願されているかを確認すれば、増加の中身を把握しやすくなります。
ただし、論文が日本の個別政策の効果を検証したわけではありません。支援制度や産業構成も国によって異なります。日本での効果を判断するには、国内のデータを使い、出願の内容や事業化、その後の成果まで確かめる必要があります。
