企業は、製品やサービスに使う技術を開発する一方で、成果がすぐには収益につながらない基礎研究にも取り組んでいます。特許から得た利益への税負担が軽くなると、事業化を目指す研究に、より多くの資金や人材が向かうのでしょうか。

著者らが調べたのは、特許などから得た所得を税制上優遇する「IPボックス」という制度です。欧州で特許と科学論文の両方を生み出す企業を対象に、制度を導入した国の企業と、その時点では導入していなかった国の企業で、導入前後の変化を比べました。

導入した国の企業では、比較対象の企業に比べて特許が増え、科学論文が減っていました。この傾向は、資金に余裕のない企業や、研究者の採用が難しい環境で強くみられました。さらに、同じ研究者の活動を追っても、論文発表が減る一方で、特許への関与が増えていました。

著者らは、限られた資金や研究者の時間が、基礎研究から、特許を通じて収益につなげやすい研究へ移った可能性があると解釈しています。税優遇によって特許から得られる利益が大きくなり、企業が研究の優先順位を変えたという見方です。税制は研究への投資額だけでなく、研究の方向にも影響しうる、という指摘といえます。

この見方を支える結果もありました。制度の導入後には、特許との関係が薄い論文が減り、発表された論文は、その後の特許で引用されやすくなっていました。この点も、特許につながりやすい研究へ重点が移ったという解釈を支えています。

ただし、著者らは論文と特許を、研究の性質を知るための目安にしています。論文には応用研究も含まれますし、基礎研究の成果が特許になることもあります。個々の研究テーマの変更を直接追ったわけではないため、「基礎研究がどれだけ減ったか」まで測れたわけではありません。

日本への示唆

日本のイノベーションボックス税制(イノベーション拠点税制)を評価する際にも、特許や対象所得の増加に加え、企業の研究内容や論文発表の変化を調べることが考えられます。特許に結び付く研究を促す一方で、論文を通じて社会に共有される知識が減っていないかも、検討すべき点です。

企業にとっては、税優遇を活用した研究開発と、将来の事業を支える基礎研究をどう両立するか、という問題にもつながります。ただし、これは欧州の結果を踏まえて考えられる論点です。税制の仕組みや企業の研究活動の違いを確認し、日本でも同じ変化が起こるかを検証する必要があります。