海外から先端技術を調達しにくくなると、企業の研究開発は停滞するのでしょうか。それとも、自社や大学の研究をもっと活用するようになるのでしょうか。

Wang、Li、Wangの研究は、2010年から2022年までの中国企業の特許と科学論文を調べました。注目したのは、米国の「Entity List」に指定された企業です。これは、米国の輸出管理規則の対象となる製品やソフトウェア、技術について、輸出・再輸出・移転に追加の許可要件が課される企業を載せたリストです。

著者らは、企業ごとに指定の時期が異なることを利用し、指定前後の変化を、条件の似た未指定企業と比べました。その結果、指定後には科学論文を引用する国内特許が約72%増えたと推定しています。特許に科学論文が引用されていることを、科学的知識が技術開発に使われた手がかりとしているのです。

対象企業は、中国国内の研究に限らず、米国など海外の科学研究も参照していました。自社による科学論文の発表も増えています。技術が手に入りにくくなったことで、知識を探す方法や研究体制を見直した可能性があります。

ただし、これだけで輸出規制が企業の研究能力を高めたとは言えません。科学論文を引用する特許が増えても、特許の質や新製品の開発、売上、市場での競争力が高まったとは限らないからです。規制の対象企業は無作為に選ばれたわけではなく、同時期の他の政策や企業ごとの事情が結果に影響した可能性も残ります。データは2022年までなので、その後の影響は別に調べる必要があります。

日本への示唆

今回の対象は中国企業であり、日本企業でも同じことが起きるとは限りません。それでも、日本の経済安全保障政策を評価する際には、特許件数に加えて、企業がどの国や機関の研究成果を使い、特許や製品、商標につなげているかを見ることが大切だと考えられます。企業の知財開示でも、保有件数だけでなく、共同研究の成果や科学的知識を事業に生かす過程を説明すれば、戦略が伝わりやすくなります。これらは日本への応用を考えた本解説での考察であり、国内のデータで確かめる必要があります。