技術を守る方法は、特許だけではありません。製造方法やノウハウを、社外に明かさず営業秘密として守る企業もあります。法律による保護が強まれば、企業はこうした方法をより重視するようになるのでしょうか。

この研究が注目したのは、米国で2016年に成立した営業秘密保護法(DTSA)です。営業秘密を不正に使われた企業が、連邦裁判所で民事訴訟を起こせるようにした法律です。

著者は、2011~2023年の米国上場企業の年次報告書を分析しました。制度変更前に営業秘密について記載する企業の割合が高かった業種と、低かった業種で、その後の変化を比べています。企業が成立前から対応する可能性を考え、法案が提出された2015年を分析の区切りにしています。

まず、制度変更前には営業秘密について書いたことがなかった企業を調べました。制度変更後、新たに「営業秘密を使っている」と書く企業がどれだけ増えたかをみています。もともとそう書く企業の割合が高かった業種では、低かった業種よりも、新しく書き始める企業の増加が大きくなっていました。とくに、研究開発の活発な製造業で、この傾向が強くみられました。

次に、制度変更前に営業秘密について書いたことがある企業を調べました。一度書いた企業でも、その後の報告書に毎年書くとは限りません。そこで、各年の報告書に記載があるかを確認しました。サービス業では、もともと記載する企業の割合が高かった業種のほうが、低かった業種よりも、制度変更後に記載する割合が高まっていました。製造業では、同じような変化は明確には確認できませんでした。

注意したいのは、ここで測っているのが報告書の記載だという点です。新たに営業秘密を使い始めたのか、以前から使っていたものを説明するようになったのかは、記載だけでは分かりません。また、法律ができなければ業種間で同じような変化が続いた、という前提が成り立たない場合、制度の効果として解釈することも難しくなります。

日本への示唆

日本企業の開示を読む際にも、「営業秘密を使っている」という一文が加わっただけなのか、実際に保護の方針を変えたのかを区別する視点は参考になります。知財部が方針を説明する際も、秘密の内容を明かさずに、特許と営業秘密の役割分担を示す方法が考えられます。

いずれも本解説の考察です。日米では法律や報告書の慣行が異なります。日本で同じような分析を行うには、記載の変化と実際の管理・保護の方針が対応するか、企業への調査などで確かめる必要があります。