企業が新商品を発売するときには、その名前を商標として出願することがあります。では、それまで使っていた商品の名前はどうなるのでしょうか。新旧の商品を売り続ける場合もあれば、新商品への切り替えに伴って、古い商標の更新を見送る場合もあるでしょう。

Agiropoulosらが2026年9月に発表した研究は、1996年から2012年までにEU知的財産庁へ出願された約60万件の商標を対象に、出願から10年後の更新状況を調べています。企業ごとの商標出願件数に加え、同じ商品・サービス分野に属する商標の割合が、更新とどう関係するかを分析しました。分野の区分には、商標の商品・サービスを分類する「ニース分類」を使っています。

分析では、商標を多く出願していた企業ほど、個々の商標を更新する傾向がみられました。出願件数が100件多い企業では、更新確率が約0.8ポイント高いという関係です。

一方、商標が同じ分野に集中している企業では、更新確率が低くなっていました。集中の度合いで企業を二つのグループに分けると、集中度が高いグループの更新確率は、低いグループより11.8ポイント低いと推定されています。20年後の更新でも、差は縮まるものの、同じ傾向がみられました。

著者らは、その背景として、新しいブランドが古いブランドに取って代わる「共食い」の可能性を挙げています。商標が増えたからといって、すべてのブランドが成長しているとは限りません。新たに出願された商標と、更新されずに残らなかった商標を分野ごとに追うことで、ブランドの入れ替えが見えてくる可能性があります。

ただし、この分析だけでは、同じ分野への商標の集中が、更新を見送る原因になったとは判断できません。売上や従業員数などの企業情報が十分に考慮されていないため、業績悪化や事業撤退の影響も考えられます。また、更新されなかったことだけをもって、そのブランドが失敗したとはいえません。

日本への示唆

日本企業のブランド戦略を考えるうえでも、商標の件数に加えて、何を新たに出願し、何を更新し、何を手放したのかを継続して見ることが役立ちそうです。知財開示で商標の増減を事業の見直しと結び付けて説明すれば、件数だけでは見えない企業の判断も伝わるでしょう。

もっとも、今回の研究が対象としたのは、EU全域を一つの登録でカバーする商標です。市場の広さや、使われていない商標の扱いには日本との違いがあります。同様の関係が日本でもみられるかは、国内の商標更新履歴と企業の売上などを組み合わせて検証する必要があります。

なお、日本への示唆は、研究結果を踏まえた本解説独自の考察です。