新しい商品を出すとき、その名前やロゴを商標として守ることは大切です。ただ、商標を一つ取得することで、企業にどれほどの価値が生まれるのかは、簡単には分かりません。

この研究では、米国の上場企業が取得した商標と株価データを結び付け、商標が公表された日前後の株価の動きから、個々の商標の価値を推計しました。

推計額を小さい順に並べた真ん中の値、つまり中央値は約2,000万ドルでした。かなり大きな金額ですが、実際にその価格で商標が売買されたわけではありません。株式市場の反応をもとにした評価です。

商標を取得した企業では、その後、新商品の投入や売上、雇用などが増える関係もみられました。商標の価値を測るだけでなく、その後の事業の動きまで追っている点も、この研究を読むうえで興味深いところです。

ただ、商標を取った企業の売上が伸びても、それだけで「商標のおかげ」とは言えません。新商品の販売が好調だから、その名前を守る商標も増えている可能性があるためです。

そこで著者らは、たまたま登録率が高い審査官に当たった企業と、そうでない審査官に当たった企業を比べる、という考え方で分析しました。米国では担当審査官がほぼ無作為に決まるため、登録率が高い審査官に当たった企業が、もともと成長しやすい企業だったとは考えにくくなります。著者らは、この審査官の違いによって生じる商標の取得しやすさの差を利用し、その後の売上や雇用への影響を推計しました。ただし、審査官の違いが商標の取得以外の理由で企業の成長に影響しない、という前提が必要です。商標を取れば、どの企業でも成長するという意味ではありません。

また、株価には将来の商品や事業への期待も反映されます。推計された金額を、商標だけを切り離した売買価格として扱うことはできません。対象が米国の上場企業であることにも注意が必要です。

日本への示唆

日本の知財実務に生かすなら、商標の保有件数に加えて、どの商品や市場で使われ、事業とどう結び付いているかを整理することが考えられます。知財部が商標の役割を社内外に説明する際にも、こうした情報は役立ちそうです。ただし、説明を充実させれば企業評価が高まるかどうかを、この論文が検証したわけではありません。

日本で株価を使った評価を行うには、商標が公表される手続きや時期、その日に市場へ伝わる情報を確認する必要があります。米国の推計額を、そのまま日本企業の商標価値に当てはめることはできません。